試験制度・勉強法に関するQ&A(25)
簿記1級は、企業会計・経営管理に関する高度な知識が問われる上級レベルの検定試験です。税理士・公認会計士などの難関国家資格の登竜門に位置づけられています。
- (税理士・会計士)
- 簿記1級
- 簿記2級
- 簿記3級
- 簿記初級・原価計算初級
低
簿記1級は商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算の4科目で構成されていて、商業簿記・会計学では企業会計全般に関する高度で難解な取引の計算方法・理論、工業簿記・原価計算ではマネジメント層に必要不可欠な原価管理・意思決定などの実践的な知識を学ぶことができます。
なお、簿記1級の合格者には税理士試験の受験資格が付与されます。
簿記の資格試験は主催者別に4種類あります。
試験名 (通称) |
試験種別 | 試験級 | 知名度 | 社会的評価 | 主催者 |
---|---|---|---|---|---|
日商簿記検定 (日商簿記) |
公的資格 | 初級・3級 2級・1級 |
高 | 高 | 日本商工会議所 (および各地商工会議所) |
簿記能力検定 (全経簿記) |
公的資格 | 基礎・3級・2級 1級・上級 |
中 | 中 | 全国経理教育協会 |
簿記実務検定 (全商簿記) |
民間資格 | 3級・2級・1級 | 中 | 低 | 全国商業高等学校協会 |
簿記能力検定 (日ビ簿記) |
民間資格 | 3級・2級・1級 | 低 | 低 | 日本ビジネス技能検定協会 |
4つの中で一番おすすめなのは日商簿記検定(日商簿記)です。検定試験自体に歴史・伝統があり、主催団体(日本商工会議所)の信用度・知名度も高く、また社会的評価も4つの中で一番高いため、就職活動を控えた大学生や転職を考えている社会人の方に特におすすめします。
簿記能力検定(全経簿記)は、日商簿記検定と比べると一般的な知名度・社会的評価はやや落ちますが、文部科学省が後援していて、かつ、最高峰の上級試験合格者には税理士試験の受験資格が授与されるため、日商簿記検定に次ぐ人気を誇っています。
簿記実務検定(全商簿記)は商業高校の生徒さん向けの試験、簿記能力検定(日ビ簿記)は資格の大原で学ぶ生徒さん向けの試験です。どちらも試験というよりは内部テスト的な位置づけになるため、一般の受験生が受験する機会は少ないです。
受験資格は特にありません。性別や年齢、国籍などを問わず誰でも受験することができます。
2020年度までの簿記1級の受験者数は年間約2万人、平均合格率は約10%です。年度別・試験回別の詳細なデータは、簿記1級とはのページでまとめています。
簿記3級・簿記2級と比べると一気に難しくなります。簿記3級の難度を「1」とすると、簿記2級は「5」、簿記1級は「20」ぐらいのイメージです。
簿記1級の市販テキスト・通信教育などは、簿記2級の合格者(=簿記の標準的な知識を有している方)を想定して作られています。
よって、(ほとんどいないとは思いますが)簿記3級・簿記2級を飛ばしていきなり簿記1級を受験する場合であっても、簿記3級・簿記2級の勉強をひと通り済ませておく必要があります。
簿記1級の合格に必要な勉強時間(標準学習時間)は、受験生の地頭の良さや簿記との相性、運などによって大きく異なりますが、一般的には(簿記2級合格後から)1,000時間前後と言われています。
勉強期間は、1日2時間勉強すると1年半、1日3時間勉強すると1年、1日5時間勉強すると6か月~7か月ぐらいがひとつの目安になります。長丁場の戦いになることを覚悟しておきましょう。
簿記1級の合格が「企業会計・経営管理に関する高度な知識を有していること」の証明になるため、大学の推薦入試・就職活動・転職活動では大きな武器になります。
学歴や年齢などの他の条件にもよりますが、簿記1級に合格すれば未経験でも経理職の正社員になれる可能性は非常に高いです。
ただ、経理職の正社員の採用にあたっては資格の有無よりも実務経験が重要視されるケースが多いため、未経験の方は宅建士や建設業経理士1級などの関連資格を取得して、アピールできる材料をさらに増やしておきましょう。
簿記1級は難度が一気に上がる、かつ、市販教材・WEB情報サイトがあまり充実していないため、独学で合格するのはかなり難しいです。通学講座や通信講座を利用して勉強することをおすすめします。
ただし、いきなり講座に申し込むのではなく、まずは複数の学校のパンフレットを請求して内容・受講料をじっくり比較考量して、自分に一番合いそうな講座を選びましょう。
なお、資格の学校TACには通信講座と独学の良いとこ取りをした「独学道場」というハイブリッド講座もあります。プロの力を借りたい、でも受講料はなるべく安く抑えたい…という方におすすめです。
「基礎教材(6冊~12冊)」と「電卓」と「筆記用具」の3点が必要です。独学の場合、初期費用は10,000円~ぐらいが一般的です。
テキスト(教材)は、サイズやレイアウト、色使いなどを実際に自分の目で確かめて購入するのが一番です。
ただ、近くに大きな書店がないという方や、書店に行っても種類が多すぎて選ぶのが難しいという方もいらっしゃると思います。
私が実際に内容を確認したうえで自信を持っておすすめできるテキスト(教材)を、おすすめテキスト(教材)のページで詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてください。
税理士や公認会計士などの上位資格にステップアップする予定の方は、簿記1級の学習時点からある程度しっかりした電卓を買うことをおすすめします。コスパ・性能のバランスが良いのは3,000円~5,000円ぐらいの電卓です。
私が実際に購入・使用したうえで自信を持っておすすめできる電卓を、おすすめ簿記電卓のページで詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてください。
簿記1級の試験問題は大問4つ(商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算)で構成されています。配点は各25点ずつで合計100点満点です。
- 9時~9時15分頃:注意事項などの確認、問題用紙・答案用紙の配布
- 9時15分頃~10時45分頃:前半の試験90分(商業簿記・会計学)
- 10時45分頃~11時頃:途中休憩
- 11時頃~12時30分頃:後半の試験90分(工業簿記・原価計算)
前半の試験90分と後半の試験90分との間に、10分~15分の休憩が入ります。
簿記1級の商業簿記では、決算整理後残高試算表や本支店合併財務諸表、連結財務諸表の作成などの総合問題が主に出題されます。
過去問類題がよく出題されるため、シンプルに問題をたくさん解くことが一番おすすめです。学校を利用して勉強する方は(過去問を参考・分析して作られている)答練・模試を、独学で勉強する方は市販の過去問題集を有効活用しましょう。
簿記1級の会計学は、2問または3問構成の個別問題が主に出題されます。
- 第1問:空欄記入や語群選択など
- 第2問:連結財務諸表の作成など
- 第1問:空欄記入や語群選択など
- 第2問:有価証券やリース、退職給付、税効果など
- 第3問:空欄記入や簡単な論述、事業分離や連結会計など
空欄記入や語群選択などの理論問題は、しっかり対策しておけば短時間で解答できるコスパが良い問題です。市販の理論対策教材などを使って万全の対策をしておきましょう。
簿記1級の工業簿記では、総合原価計算・標準原価計算・費目別計算・部門別計算などの計算問題や理論問題が出題されます。大問の数(1問~3問)は試験回によって異なります。
過去問類題がよく出題されるため、シンプルに問題をたくさん解くことが一番おすすめです。学校を利用して勉強する方は(過去問を参考・分析して作られている)答練・模試を、独学で勉強する方は市販の過去問題集を有効活用しましょう。
簿記1級の原価計算では、設備投資の意思決定・業務的意思決定・CVP分析・ABC(活動基準原価計算)などの計算問題や理論問題が出題されます。工業簿記と同様に、大問の数(1問~3問)は試験回によって異なります。
過去問類題がよく出題されるため、工業簿記と同様に問題をたくさん解くことが一番おすすめです。
間違いノート(ミスノート)は「あなた専用の弱点克服教材」です。作り方・使い方を間違えなければ最強の学習ツールになるので、ぜひ作って有効活用してください。
作り方のポイントは「作るのに時間をかけすぎない」「要点のみを完結にまとめる」の2点です。自分がよく間違えてしまうところ、理解があやふやなところだけをピックアップして簡潔にまとめましょう。
使い方のポイントは「細切れの時間を有効活用する」「こまめに何度も目を通す」の2点です。5分、10分といった細切れの時間を有効活用して、とにかく何度も目を通してください。いつの間にか自然と理解できるようになります。
簿記1級では簡単な論述や語群選択の問題がコンスタントに出題されるため、企業会計原則・企業会計基準・原価計算基準などの理論対策が必要になります。
会計法規集を購入してじっくり勉強するのもいいですが、経済性・効率性を重視する場合は市販されている理論対策教材を1冊購入し、上述の間違いノート(ミスノート)と同様に何度も目を通すことをおすすめします。
簿記1級の受験にあたって過去問対策は必要です。
商業簿記・会計学は数年前に出題された問題の改題がよく出題されますし、工業簿記・原価計算も(出題間隔はもう少し空くことが多いですが)同様だからです。
独学で勉強する方はインプット教材(テキスト・問題集)をひととおり勉強したら、市販の過去問題集を1冊購入して何度も繰り返し解いてください。
2021年度以降の簿記1級の試験問題(過去問)は、試験終了後に日本商工会議所の公式サイトで公表されます。
簿記1級の出題予想を無料で公開しているところはおそらくないです。市販の予想問題集に出題予想が掲載されているので、気になる方は受験前に確認しておきましょう。
簿記1級の予想問題(模試)を無料で公開しているところはおそらくないです。予想問題(模試)を解きたい方は、市販の予想問題集をお買い求めください。
簿記1級の試験形態は「統一試験(ペーパー試験)」の1種類のみです(※簿記3級・簿記2級は「統一試験」の他に「ネット試験」と「団体試験」があります)。
統一試験の詳細については、簿記1級とはのページで詳しくまとめています。
統一試験(ペーパー試験)に関するQ&A(23)
簿記1級の統一試験は、1年度に2回(6月・11月)実施されます。受験を希望する地区の商工会議所に直接申し込み、商工会議所が指定した試験会場で受験する形になります。
試験の開始時刻は午前9時です。最初の90分で商業簿記・会計学の問題を解答し、10分~15分前後の休憩をとった後、残りの90分で工業簿記・原価計算の問題を解答します。
簿記1級の統一試験の受験料は、7,850円(税込)です。
なお、申込方法・支払方法によっては数十円~数百円の手数料が発生することがあります。受験を希望する地区の商工会議所のサイトにて詳細をご確認ください。
簿記1級の統一試験は、1年度に2回(6月の第2日曜日、11月の第3日曜日)実施されます。
受験を希望する地区の商工会議所に直接申し込みます。
なお、申し込む商工会議所は受験生が自由に選択することができます。自宅の最寄りの商工会議所はもちろん、職場・実家の近くの商工会議所や遠方の商工会議所に申し込むことも可能です。
簿記1級の統一試験の申込期間・申込方法は商工会議所ごとに異なります。受験を希望する地区の商工会議所のサイトにて詳細をご確認ください。
簿記1級の統一試験は(申し込む商工会議所を自由に選ぶことはできますが)試験会場を自由に選ぶことはできません。商工会議所が指定した試験会場で受験する形になります。
簿記1級の統一試験は、原則として申込後の受験日・受験級の変更、受験料の返還請求(キャンセル)はできません。
簿記1級の受験にあたって特別の対応・配慮が必要な方(ex.障がいをお持ちの方、妊娠中の方)や、車いす・補聴器・ルーペなどを利用する方は事前に申請する必要があります。
受験する商工会議所によって必要な手続きや申請書類などが異なるので、受験を希望する地区の商工会議所に(試験に申し込む前に)直接お問い合わせください。
簿記1級は午前(9時~)、簿記2級は午後(13時30分~)に実施されるため、簿記2級と簿記1級の統一試験を同一日にダブル受験することは可能です。
簿記1級の統一試験の試験時間は、商業簿記・会計学の試験時間が90分、工業簿記・原価計算の試験時間が90分の合計180分(3時間)です。
- 9時~9時15分頃:注意事項などの確認、問題用紙・答案用紙の配布
- 9時15分頃~10時45分頃:前半の試験90分(商業簿記・会計学)
- 10時45分頃~11時頃:途中休憩
- 11時頃~12時30分頃:後半の試験90分(工業簿記・原価計算)
前半の試験90分と後半の試験90分との間に、10分~15分の休憩が入ります。
絶対に必要な持ち物は「写真付きの身分証明書」「電卓(※そろばんでもOK)」「筆記用具(シャーペン・シャー芯・消しゴム)」の3点です。
掛け時計が設置されていない試験会場もあるため「腕時計」も忘れずに持参しましょう。なお、外部との通信が可能な腕時計型情報端末(アップルウォッチなど)は使用することができません。
定刻になると、まず試験監督が注意事項を読み上げます。次に前半の試験(商業簿記・会計学)の問題用紙・答案用紙・下書用紙が配られます。
配布物が過不足なく行き渡り、かつ、答案用紙に受験番号・氏名・生年月日を記入する作業を全員が完了したことを試験監督が確認したタイミングで試験が始まります。
試験開始からちょうど90分後に前半の試験が終了します。試験監督が全員分の問題用紙・答案用紙・下書用紙の回収を確認したタイミングで10分~15分前後の休憩に入ります。
休憩後に後半の試験(工業簿記・原価計算)が始まりますが、基本的な流れは前半の試験と同じです。試験開始からちょうど90分後に後半の試験が終了します。
試験監督が全員分の問題用紙・答案用紙・下書用紙の回収を確認したタイミングで解散になります。
簿記1級の統一試験では、カンマの有無は採点に影響しません。金額にカンマを付けていなくても、金額があっていれば正解になります。
ただ、3桁ごとにカンマを付けるのは簿記・会計の世界では常識ですし、付けるメリットはあっても付けないメリットは特にないので必ず付けましょう。
途中入室(遅刻)は原則として認められません。
途中退室は試験開始30分後から試験終了10分前まで認められます。また、トイレなどで一度途中退室した場合、原則として再入室することはできません。
簿記1級の統一試験では、前半の90分の試験(商業簿記・会計学)と後半の90分の試験(工業簿記・原価計算)でA4サイズの白紙が1枚ずつ配られます。合計は2枚です。
足りなくなったからといって追加でもらうことはできないので、問題用紙の余白もうまく使って解答しましょう。
簿記1級の統一試験では、試験終了時に問題用紙・下書用紙・答案用紙が回収されます。よって、問題用紙・下書用紙を持ち帰ることはできません。
簿記1級の統一試験は、試験終了時に問題用紙・下書用紙・答案用紙が回収されます。また、模範解答も公表されないため自己採点するのはかなり難しいです。
簿記1級の統一試験の模範解答は公表されません。
簿記1級の統一試験の合格点は、100点満点中70点です。70点以上が合格、69点以下が不合格になります。
なお、簿記1級には1科目でも10点未満(=得点率40%未満)の科目がある場合は、合計点が70点以上でも不合格になる合格基準点制度(足きり制度)が設けられています。
簿記1級は全員分の答案用紙を一箇所に集めたうえで採点する形式を採っているため、合格発表は試験の約2か月後になります。
発表日時・発表方法は商工会議所によって異なるため、受験を希望する地区の商工会議所のサイトにて詳細をご確認ください。
簿記1級の統一試験の合格者には、紙の賞状が授与されます。
合格証書の受取方法は商工会議所によって異なる(ex.商工会議所の窓口、郵送)ため、受験を希望する地区の商工会議所のサイトにて詳細をご確認ください。
合格証書を再発行してもらうことはできません。失くさないように大切に保管しましょう。
万が一、失くしてしまった場合は合格証明書(A4大)を有料で発行してもらうことができます。受験した商工会議所または最寄りの商工会議所にお問い合わせください。
日商簿記検定の正式名称は「日本商工会議所及び各地商工会議所主催簿記検定試験」です。
ただ、履歴書に「第▲▲▲回 日本商工会議所及び各地商工会議所主催簿記検定試験 1級合格」と書くのは長すぎるので、「第▲▲▲回 日商簿記検定試験 1級合格」と一部を省略して簡潔に書くことをおすすめします。
資格の学校TACの直販サイト「CyberBookStore」では、TAC出版の簿記1級の教材を割引価格(定価の10%~15%オフ)&冊数に関係なく送料無料で購入することができます。
基本教材をまとめて15%オフ&送料無料で買うもよし、予想問題集を1冊だけ10%オフ&送料無料で買うもよし。簿記1級の教材をお得に買いたい方は要チェックです!